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「アキバ系眼科医だ」

コンタクトレンズがなくなったので、買いに行ったところ、
4ヶ月おきに診察を受けないと販売できないということで、
店の隣の眼科へ案内されました。


「混雑していますが、お時間大丈夫ですか?」と聞かれて
「はい」と言って入ると、たしかにかなりの混雑。


40分ほど待って名前を呼ばれ、視力検査をしてから診察室に入ると、
白衣を着た五十前後と思われる、おっさんが立っていました。
もちろん、このおっさんが医師なのですが、
医師のオーラがゼロでした。


突き出たお腹に、模様の入った紺色のシャツ。
シャツの裾はぴっちりジーンズにしまわれ、
ブルーのネクタイには「Soccer」という文字と
ロケットのような絵がプリントされていました。
「そこの黒くて丸い椅子に座ってください」
と早口で言うと、部屋からスタスタ出て行きました。
僕の横を通り過ぎる際、ふーっと体臭が臭ってきました。


「アキバ系眼科医だ」


と思いました。



カルテを手に戻ってくると、

大きな機械を動かして僕の目をのぞきながら、
「しーなくんは、何やってるの?コンピュータ関係?」
と唐突に聞いてきました。
いきなり「しーなくん」とフレンド感覚で呼ばれたことに
まず驚きましたが、それ以上に、
僕がIT関係の仕事をしていることを見抜いてきたことに驚きました。
眼底に書いてあるのだろうか。


しかしながら、僕はこのおっさんを
「アキバ系眼科医だ」などと評してしまいましたが、
僕は人のことを言えたものではなく、
僕自身の外見も振る舞いも「オタク」そのものなので、
人と話すのが苦手でPCに向かってばかりいるようなタイプである、
と判断されることは、これまでに何度もありました。
というか、実際にその通りです。


「はい。一応」
Javaとかやる?」
「いえ、VBとかを」
「.NET?」
「ええ、はい」
「私、今、医者ですが、平日はネットワークの構築をしてます。
 ○○っていうドリンク飲んだことある?
 あの△△製薬とそれを入れるビンのメーカー、
 そこをつなげてリアルタイムで取引できるようにしたりすると」


と話し出したら、おっさんのトークフラグが
完全に立ってしまいました。



要点をまとめると、

以下のようになりました。

  • 独立してやっていくためには資格が必要
  • ○○資格を持った人間が2名以上いれば会社が作れる
  • サラリーマンより、プロを目指せ
  • 人脈をしっかり作れ
  • 中間の業者が暴利をむさぼっている
  • 来年は医師を辞めて、ネットワーク一本で行く


免許証を見せてくれたり、これから取ろうとしている免許や、
僕が今読んでいる資格の本を
「これは、しーなくんの知識を豊かにはするが、懐は豊かにしない」
とか言いつつ、最後にはこう締めくくりました。


「しーなくんは、まだ若い!免許と人脈をしっかり作ってやっていけば大丈夫!」


僕も何か感動して
「あ、ありがとうございます!」と言って、
お辞儀して出てきましたが、






目、一切関係ねーじゃん!!






診察室を出るまで、20分間も話していました。
どうりで混雑するわけです。
僕も興味が出てきて、相手を乗せるような
質問をたくさんしてしまったのもわるかったと思いました。


診察費380円。
おっさんに言われたことは、すべてiPod touchにメモして帰りました。