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家のご飯

僕がひとり暮らしをしたくない大きな理由のひとつとして、
母の料理がうますぎるということが挙げられます。



どのくらいうまいかというと、
すごい空腹時などは、食べたいの気持ちが、
「はやく胃袋を満たして安心させてやれ」
と、食べ物を喉の奥へと、ぐんぐん送る指令を出すのですが、
一方の、味わいたいの気持ちが、
「喉を通り過ぎたら味わえないだろうが」
と、舌のある口の方へ逆に戻そうとする指令を出すので、
両担当者がせめぎ合い、喉とも口ともつかぬ位置で停滞しつつ、
そうこうしているうちに頭が混乱してきて、
オエッ!と吐きそうになるくらい、


うまいのです。


ひとり暮らしをしたら、家のご飯が食べられなくなると考えると
恐ろしくてなりませんし、仕事の関係で家のご飯が
食べれない状況になるとしたら、迷わず退職すると思いますし、
転職するにしても、家のご飯が食べられない仕事には
就かないと思います。


しかし、年齢的に母の方が僕より早く寿命が来ると思うので、
いつかは家の料理が食べられなくなるのですが、
そうなったら、僕も死のうと思います。