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一歩前へ

男子用小便器の前に立つと
「一歩前へ」
という張り紙が、目の前に来るように
張られているトイレがありますが、
この「一歩前へ」を見ると不安な気持ちになります。


「一歩前へ」とは何かというと、
トイレ利用者を、小便器に向かい一歩前進させることにより、
小便が床に落ちる可能性を低下させ、
トイレを衛生的に使わせるためのアイデアであり、
いつの頃からか、日本全国(?)に急速な広がりを見せた、
男子の眼前に叩きつけられる、警告文なのです。


何が僕を不安にするのか、それは小便を床に落とすという、
極めて後ろ向きな波動の出る、しょうもない影の現象に対し、
「一歩前へ」
というポジティブで、ときには人生を応援することにもなる
明るい光のメッセージが向けられ、
それらが便所において化学反応を起こしている点です。


一般的に「一歩前へ」踏み出す先にあるものといえば、
「未来」や「夢」が妥当だろうと思っていました。
「一歩前へ!小便器へ向かって」というのは、
「生きろ!座敷牢の中で」みたいな、
「やればできる!でもやんなくてもいいよ」
「大丈夫だって!わかんないけど」
みたいなものではないでしょうか、違うか。


それに、ほとんどの男子は小便をこぼさないと思われるのに、
誰かれ構わず、全員信用しないで「一歩前へ」と
無差別的に、まるでロボットに命令するかのように
行動を強制していることには、違和感を通り越して、
残尿感すら感じます。


かと思えば、低姿勢な「一歩前へ」や、
独自の進化を遂げて、複雑になっているものも目にします。
去年通っていた自動車教習所の「一歩前へ」は驚きました。

トイレはみなさんがホッとできる数少ない場所と考えております。
ですからトイレはきれいに使っていただきたいと考えております。
どうか、もう一歩前へご協力お願いします。
一歩前へ。はい、ありがとうございました。


なんなんだよう。