小説集『突き抜け』のご購入はこちらから。



中村航先生のトークセッションに行った。

僕の好きな人が、よく眠れますように
『僕の好きな人が、よく眠れますように』刊行記念で、
中村航さんが「創作の現場」というテーマで
トークをされるということで行ってきました。
場所は町田の桜美林大学。


「桜美林」という言葉のイメージから、
勝手に女子大学かと思っていたら、共学でした。
でも女子が多く感じられたのは、
僕が工業大学出身だからでしょうか。


会場は100人ぐらい入る教室で、
参加者の大半は学生さんのようでした。
「いつだって全体を見ることができるのは、壇上の人間と一番後ろの人間だ」
(『月に吠える』より)という考えから、後ろの方に座っていたのですが、
「あ、前に移動してください」と学生さんに言われて、
前から3番目に座りました。



10分くらい遅れて始まって、

中村航さん(ナイスガイ)が入ってきました。
「おおお」と思いました。
中村航さんは、僕を見て少し笑いました。


4人の学生が司会をして、
次々と中村航さんに質問をしていくというスタイル。
中村航さんは、リラックスしつつ、小さなボケを挟みつつ、
クールに自然に質問に答えてらっしゃるように見えました。
コンスタントに笑いが起きていました。
なるほど、なるほどと思いました。


創作については、小説はゴールのようなものを決めておいて、
途中は、思い付いたセンテンスをメモしておき、
過程を、一瞬一瞬、一文一文に集中して
最善を尽して書いていくの繰り返しということでした。
書く時に「『流れ』がある」とおっしゃったとき、
女子学生さんが「どこにですか?」と聞いたら、
一瞬言葉に詰まって、




「上空に」




と答えていたのが印象的でした。
僕が中村航さんの作品に感じるのは、
その「流れ」なのかもしれないと思いました。


あなたがここにいて欲しい


それから、「楽観」と「悲観」のバランスを、
クルマの、ガソリンとハンドリングに例えていました。
作品に出てくる吉田くんの「油断してはいけない」を感じました。
それから「モテ」についてや、
「スキンシップはあなどれない」とおっしゃっていました。
たしかに、と思いました。




夏休み



最後に

参加者が質問する場面があったので、
勇気を出して、手を上げて質問をしました。


「中村航先生の『宇宙観』についてお聞かせ頂けますか?」


『星空放送局』という絵本に、
「宇宙」という名前のネコが出てくるので、
きっと何かあると思って質問したのですが、
僕のサイレンツ特有の緊張感が走って、
星空放送局


会場が、ポカーンとなりました。


それを察してくださってか、中村航さんが、
「この人はM−1に出たり、宇宙のことを考えてるおもしろい人です」
というようなフォローをしてくださったので、
つまみ出されずにすみましたが、




「『確率の雲』だと思います」




という、中村航先生の回答が飛び出すと、
さらに会場は、ポカーンとなった気がしました。
でも、僕は何となくわかりました。



いくつかの事柄が

繋がりました。
中村航さんは「物語の強度」ということを、
何度もおっしゃっていました。
いかに、物語を描けるか。それは小説としてだけではなくて、
例えば、病気の子が、自分は病気を治すんだという
強い信念で、病気が治るまでの物語を強く描けたら、
治っていくというようなことのようです。
そこに僕はとても感動しました。


それから、中村航さんが『ぐるぐるまわるすべり台』で
野間文芸新人賞を受賞されたときの「受賞の言葉」を思い出しました。

リアルに掴めるものなんか何もないというのは絶対的な事実だけど、
それでも何かを掴んだという実感は存在する。それらは共存する。
だから進もうという情動を思い切り肯定したい。

ぐるぐるまわるすべり台


この言葉で、僕は強く信じることの大切さを実感したのです。


そして、デビュー作『リレキショ』の冒頭は、
年上のおねえさんの、こういう言葉から始まるのです。


「大切なのは意志と勇気。それだけでね、大抵のことは上手くいくのよ」


リレキショ


「確率の雲」というのは、原子核の周りを電子が回っていて、
そのときの電子が存在する確率の高い領域を示す言葉なのですが、
量子力学の解釈だと、「シュレーディンガーの猫」みたいに、
はっきりと「こうなってる」と決められない確率的なあれでして、
要するに、おそらく、たくさんの偶有性の雲の中から、
自分が何を欲して、何を選び取るか、そのときの道筋を
「強度の高い物語」として描いて「意志と勇気」で「突き抜けろ」。
そういうことではないかと、僕は解釈しました
そして、それが時には「宿命」であったりするのではないでしょうか。


質問への回答時間が足りなくなって、
「今度、飲みにいきましょう」
と誘って頂けました。中村航さんのブログに、だいぶ昔ですが、
「かねます」という居酒屋のことが書かれていたので、


「『かねます』ですか?」


と聞いたら、


「『かねます』でも、居酒屋『よし』でもいい


とのことでした。吹き出してしまいました。
僕がR−1に出ることもご存知でした。
サインには「確率の雲」と書いて頂きました。
へもいっ子クラブの新しいステッカーをお渡しして帰りました。
とても刺激的な1時間半でした。何かを掴んだという実感。
本当に、どうもありがとうございます。



5年前に、

文學界に掲載されていた
『ぐるぐるまわるすべり台』を土曜日のお昼、図書館で読んで、
感動して、僕は初めて作家の方に感想のメールをしたのです。
翌日(当日?)、先生が「へもいっ子クラブ」に入っていました。
この展開も「確率の雲」の中から、
そういう位置に電子を見つけて、それを「上空にある流れ」で
繋いだ結果なのかなあと思いました。
今度、居酒屋「よし」へご案内致します。
本当に「よし」でよろしいでしょうか。


あと、イガラシイッセイ氏に、中村航さんのことを話したら、
大変うらやましがっていました。


それから、中村航さんの作品を読んだことがない方は、
読むとよいと思います。宇宙的に。




100回泣くこと
絶対、最強の恋のうた