靴を磨いた。

何かの用事で新橋駅を歩いていた時に、
「感動の靴みがき」
という看板があって、




「感動って何だ!」




と叫んで、靴みがきの店に入ったのです。


600円だとつま先だけで、
1000円だと全体をやってくれるそうで、
きっと金額が高い方が、感動も大きいと思って、
1000円のコースを選択しました。


靴みがきのおじさんは、まずブラシで埃を払って、
革に栄養を与えるクリームを手で塗って、
それから、ワックスを塗って、布で磨いていきました。
僕は興味深くなって、いろいろ質問しました。
「この黒い固体はなんですか?」
「今付けたのはなんですか?」
「道具はどこでも売ってるものですか?」
おじさんは、靴を磨きながら、
質問に全部丁寧に答えてくれました。


それから、靴磨きというのは、
もっとガシガシと力を込めて擦るものだと思っていたのですが、
非常にやさしくやさしく磨くので、へえと思って、
「こんなにやさしく磨くものなのですね」
と伝えると、
「そうです、ちょっと手を出してください」
と言うので手を出したら、
僕の手の甲をそっと触れるか触れないかの感じで、
布越しに、さわっと撫でました。
「これくらい、やさしく」
そこには、がありました。


それで、僕の靴は、
超ピカピカの鏡面仕上げになって、
「感動しました」
と一礼して、愛の繰り返しが感動になるんだ、
なんて考えながら帰りました。


そして、その感動のまま、家からネットショップに、
おじさんに聞いた道具一式を注文して、
それが今日届いて、さっき、さっそく磨きました。



20分くらい、無心で、やさしくやさしく、
磨き続けたので、これでも少し光っていますが、
おじさんの輝きは出せませんでした。
さらによく見ると、左右で光り具合が違ってしまいました。


さすが、おじさんだと思いました。
僕には愛が足りないのか。