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特集、野庭を歩く。


土曜日の昼、小学校からの友人である
オカンダ(写真左)と野庭を歩き回りました。
野庭とは何かというと、横浜にある町の名前です。
「のば」と読みます。


野庭へ行ったのは、十数年ぶりでした。
十数年ぶりに行くといっても、遠かったり、
交通が不便だったりわけでもなく、
うちから歩いて数分もすれば、
簡単に野庭に足を踏み入れるくらいの、
超近所なのです。


では、なぜ十数年もの間、
我々は野庭に行かなかったのかというと、
それは、


恐かった


からです。
何が恐かったのか。その恐怖の原因をたどると、
小学、中学時代にまでさかのぼります。
しかし、今となってはよく分かりません。
とにかく小学生の僕らが、野庭に行くというのは、
それなりの覚悟が必要な地域だったのでした。



で、オカンダと

「十数年ぶりに、野庭に行ってみないか」
という話になったのは、オトナになった今だったら、


恐くないんじゃないか


と考えたからです。
野庭が恐いといっても、
別に治安がわるいということもないのです。
なんだろうか、そうアウェイに来たという感じです。
野庭にいた、小中学生と、当時の僕らとは
学区が違うのでした。
それが何とも言えない緊張感を生んでいたのでした。


なぜ緊張してまで野庭に行く必要があったのかというと、
野庭のショッピングセンターにあった玩具屋、


ぴっころ


にしかないプラモデルや、
ガンダムのカードがあったからでした。
ぴっころで、それらを買って帰ること。
それは当時の感覚でいうと、ドラゴンクエストⅡで、
サマルトリアに行って洞窟に行って、
帰ってくるくらいの感じでした。



いざ、野庭へ。

うちの前で待ち合わせをして、
オカンダと野庭方面に向かって歩き出すと、
あっという間に、野庭町に入りました。
しかし、野庭町全体が恐いのではなく、
我々が恐れていたのは、


野庭団地


という、超広大な団地の一帯と、
そこに入るまでの竹藪、そして、
野庭団地中心部のショッピングセンターです。



これが野庭団地に入っていくための道です。
ここで何度引き返したことか、それくらいの
恐ろしさを持って、野庭団地への入り口は、
口を開いているのでした。



「いやあ、やっぱりこわいな」


オカンダは小学生の頃、
この道をどうしても通らないといけない時、


走り抜けた


と言いました。
たしかに、僕もここは走り抜けた記憶があります。


なんて恐ろしいのだ。
しかし、昔ほどの恐怖はありませんでした。
オトナになったからでしょうか。


竹藪を抜けて少し行くと、錆びたガードレールがありました。
これは昔からあって、すぐに記憶が蘇ってきました。



僕は思わずこう呟いていました。


「このガードレール見ると、ガン消しを思い出すなあ」


ガン消しとは、ガンダムの形をした消しゴムです。
なぜこのガードレールと、ガン消しが結びついているのか、
分かりませんが、僕にはどうしてもそう思えました。


そして、オカンダもよく分からないことを言っていました。


「『ウィークエンド』って言葉を聞くと、
中年男性と山吹色が頭に浮かぶ」



そして、

あっけなく、野庭の中心部のショッピングセンターに
我々は着いたのでした。本当に、あっけなかった。
野庭は、十数年前に比べて、明らかにさびれていました。
昔は、もう少し活気があった気がします。



これが野庭の中心部だ。
ご覧の通り、人がほとんどいません。


そして、ぴっころを探してみました。
ショッピングセンターの建物に入ると、
土曜の昼だったからか、
店はほとんどシャッターを下ろしていました。



ぴっころも、本屋も、すべてなくなっていました。
その代わりに、老人介護のサービスの店舗に変わっていました。
時代を感じました。



おもちゃ屋はあったが、ぴっころではなかった。


「おおー、懐かしいなあ」


などと言いながら、あちこち回りました。
人はほとんどいませんでした。
少し、さみしくなりました。




もうすでに、

野庭には、我々を脅かすような雰囲気は
少しも残っていませんでした。
人気のない穏やかな地域になっていました。
ちょうどお昼の一二時になったので、
ショッピングセンターの中華料理屋に入りました。



すごくのどかで、座敷に座りました。
お客はおじさんが数人で、テレビを見ながら、
昼からビールを飲んでいました。


我々もビールとラーメンを注文して食べました。


「ここでビール飲むなんて、小学生の頃には考えられなかったな」
「そうだな」



「それにしても、ずいぶん遠くまで来た気がしますね」
「身近な観光地だな」



黙々とラーメンを食べる。
それにしても、のどかだ。




野庭は、こんなにのどかな場所だったのです。



その後、

野庭の中心地から離れ、広大な野庭団地の一帯を
歩くことにしました。それにしても、野庭団地は広い。



これが野庭団地マップだ!
ディズニーランドくらいあるのではないだろうか。


まずは、野庭プールの前に行きました。
通称「野庭プー」です。



ここには二回くらい来た記憶があります。
冬は閉まっていて、水は緑色になっていました。



そして公園。こういう公園がたくさんあるのです。



遊具で遊ぶ三一才。自分の重たさを感じました。
子供の頃は、自分の重たさなんて気にならなかった。


そして、野庭バッティングセンターへ。



昔はゲーム機が何台か置いてありました。
今はどうなっているのだろうと思って入ると、
ゲーム機が新しくなって存在していました。



せっかくだから、二〇〇円でバッティングをしました。
三分の一は空振り。三分の二はかすっただけでした。
一つだけきれいに前に飛びました。


そして、ゲーム機でも遊びました。
オトナになって何がよかったかというと、
こういうゲームに何百円も費やせることです。


空気で浮かび上がったピンポン玉を取って、
豚の口に放り込むゲームをしました。
どうすれば、こういう発想が出るのかと思いました。



これがなかなか難しく、
三〇個入れたら景品がもらえるのですが、
毎回二八個くらいでゲームオーバーになり、
内容はアホっぽいが、ゲームバランスだけはすごいな
と思いました。


オカンダと僕で、合計五〇〇円使って、
最後に僕が、三一個を入れてクリアしました。



景品は、用途が不明なハート型のゴムでした。



嗅ぐと良い香りがしました。



と、その時でした!

なんという偶然でしょうか。
この野庭バッティングセンターで、
小学、中学で同級生だったフッくんこと、
フクシマくんと、ばったり出会ったのでした。



「おおー、フクシマくん」
「しーなちゃんじゃん!!」
「オカンダ!」


と、まさかの対面に興奮してしまいました。
フクシマくんは、
もうこの辺りには住んでいないそうなのですが、
たまたま仕事の同僚の人とクルマで遊びに来たそうでした。
フクシマくんも野庭に来たのは、十数年ぶりとのことで、
すごい偶然だと思いました。



いやあ、すごかったです。



そして、

フクシマくんとは、
「今度飲みに行きましょう」ということになって、
僕とオカンダは、野庭の残りを回りました。





「いやあ、今日は濃密な日でしたね」
「野庭、すごいな」


ということで、
野庭を歩くのを、大いに満喫したのでした。
あまり行ったことのない地元を散策するのは、
徒歩数分で観光地へ行った気分になれるのだな、
という結論になりました。


だいたい何の変哲もないところで、
僕は記念撮影しすぎですね。