小説集『突き抜け』のご購入はこちらから。



腕時計を買いたいのかどうか。さみしくてうろうろして、鳥佳。

土曜日、昼過ぎに起きて何をしたのか、
あまり覚えていない。夕方にジムへ行って運動。
上大岡をうろうろして、自分でも何がしたいのかわからず、
だけど家に帰るのは、なんか早いような物足りないようなで、
ふらっとカフェに入ってクリームソーダを飲んだりして、、
それでも時間を持てあまして、結局家に帰った。

家に帰ってから、しっかり夕食を食べて部屋に入って、
どうも落ち着かず、なんだろうなあ、
映画見たいのかな、そうでもないな、と鬱々としていたら、
そうだ、腕時計が欲しかったんだと、思い出した気になって、
ヨドバシカメラのページを見たら、
欲しかったものが横浜店にあると書いてあったので、
八時を回っていたけど出かけることに。店は十時まで。

夏の夜の横浜駅西口は、馴染みがあるというか、
浪人のときに河合塾に通っていたのでほぼ毎日歩いていて、
とくに夏は、路の両側のビルの室外機からの温風と、
渋滞のクルマの車体からの放射熱でどうかなりそうな暑さで、
さらに、シェーキーズのクレイジーペッパーのポテトの匂い、
パチンコ店や商店からの騒音、ビラ配り、祭りのような人混みで、
渾然一体となったドラゴン状の圧倒的西口感というものがあって、
うわーっとなるのだけど、なんとなく、それに伴って、
夏期講習後に寄って買った『機動警察パトレイバー』や
『究極超人あ〜る』の古本をまとめ読みした思い出とか、
社会人になってから、すがわらさんに連れて行ってもらった
店のこととかも出てきて、五感に西口が強く焼き付いている。
あといつも、ちょっとわるくて性欲の強そうな若者らがいて、
こわいけど、うらやましいような、西口だ、わーみたいな、
甘酸っぱさと、胸がきゅーっとなる感じがある。
(って、全然なに言ってるのか伝わってない気がする!)


EMOTION the Best 究極超人あ~る [DVD]

EMOTION the Best 究極超人あ~る [DVD]


で、なんだっけ。腕時計だ。なかった。
店にあると書いてあったけど、品切れということだった。
すぐに帰るのもあれなので、その西口を歩いたのだった。
西口は前にもまして、ドン・キホーテができたこともあり、
そりゃ、夜回り先生もこの辺りを夜回りするわってほどに
パワーアップしていて、ちょっと一杯だけ飲もうかと思って、
立ち飲み屋を探してふらふらしていたら、
怪しい路地に踏み入ってしまって、酔った若者や警官がいて、
ケンカがあったのか、いろいろと物騒の完成度が高い。
なんだか、自分の足がネガティブな方向に向いている気がして、
やめとこ、と思って引き返すことにした。


けど、やっぱり家に帰るのは、どうもさみしくて、
そうだ! ぼくはさみしかったんだ
で、少し飲もうと思って、とその時は思っていたけど、
つまり誰か人のいるところへ行ってさみしさを紛らわそうと、
上大岡の鳥佳へ行ったのだった。
戸を引いて暖簾をくぐって顔を出すとお姉さんが、


「あら、おかえりー」


と言ってくれた。
この夜のね、この「おかえりー」ほど、
そのときのぼくの身に沁みた一言はなかったね。
とりあえず生ビールと冷奴。それから山古志と〆ごまさば。
三岳のロックで、レバーとうずら。どれもうまい。

閉店近いから、店員さんとお客さんが、
カウンター越しに慣れた感じで世間話をしている。
それを横でグラスを傾けてにこにこしてるだけでいいんだ。


店の規模のわりに店員さんが多くて、二十歳前後の子も多く、
女の子がかわいいのはもちろんだけど、
男の子もかわいいと思うようになっていて、というか、
人間みんなかわいいよね。というやさしい気持ちになっていた。
〇時前に出て、鎌倉街道を歩いて、少し飲みすぎたなと、
家の前の広場の大きなベンチで仰向けになって、
夜空をしばらく眺めてから家に帰った。