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『幸福は日々の中に。』を観てきました。

8月25日(金)

『幸福は日々の中に。』という映画を観てきました。
友人のYUさんが渋谷でスペースを借りて自主上映をする
というのをFacebookで読んで、おもしろそうだと興味を持ちました。

「しょうぶ学園」という鹿児島にある知的障がい者施設を撮った
ドキュメンタリー映画で、いろんなことが頭に浮かんできました。
施設の中で障がい者の方は、彫刻したり、陶器を作ったり、木工したり、
糸を編んだり、紙を作ったり、それぞれやりたいことを自然に選んでやっていて、
そればかりやるので熟練して、ユニークな作品をたくさん作っていました。

また、障がいのためか、将来のこと(お金や仕事や病気のこと)を
考えたりして不安になることもなく、まさに今を生きているという感じで、
役割とか世間体とかも意識せず自由に見えて、それは理想的な生き方で、
ぼくらのいる健常者のコミュニティは窮屈に感じられ、普通とは何なのか
ということを考えさせられるな、というのが、
おそらくこの映画を観たときに出てきやすい感想だと思いました。
上映後に映画を観た人たちで感想を共有する時間があって、
そういう感想もありましたし、ぼくもそういう感想が浮かんだのですが、
より興味があったのは施設の運営みたいなところでした。

作品をどうやって作品として成立させているのか、どうやって売っているのかとか、
そのあたりは映画にはあまりなかったのですが、しょうぶ学園の園長さんや、
施設のスタッフの方たちが、うまくかたちにしているようでした。
しょうぶ学園の人たちによる「otto & Orabu」という音楽グループの演奏を見ると、
音楽の骨格になるところは、スタッフの方がきちんと押さえていて、
その上で障がい者の方が独特なパフォーマンスをすることで、
ハチャメチャなのに空中分解しない、お互いのよいところが高度に融合した、
不思議で感動的な音楽になっていて、なるほどなあと思いました。

紙を漉くひとは紙を漉くことだけ考えてやって、
糸を編む人は糸を編んで、編み終えて飽きたら捨てちゃうらしいので、
スタッフの人が考えて、紙を絵を描く人のところに持っていくと、
すぐに絵を描き始めたり、糸をミシンを使うひとに渡すと服に縫い付けたり、
特技やキャラクターに合わせたコーディネートが見事であることと、
出来上がった作品を「しょうぶ学園」のブランドで販売する能力がすごいと思いました。



あと、唐突ですが、中原中也の『芸術論覚書』を思い出しました。
芸術と生活の関係について。

一、芸術を衰退させるものは、固定観念である。いってみれば、人が皆、芸術家にならなかったということは、たいがいの人は何等かの固定観念を生の当初に持ったからである。固定観念が、条件反射的にあるうちはまだよいが、無条件反射とまでなると芸術は枯渇する。

 芸術家にとって世界は、すなわち彼の世界意識は、善いものでも悪いものでも、その他いかなるモディフィケーションをも許容できるものではない。彼にとって、「手」とは「手」であり、「顔」とは「顔」であり、A=Aであるだけの世界の中に、彼の想像力は活動しているのである。したがって、「面白い故に面白い」ことだけが芸術家に芸術の素材を提供する。あたかも、「これは為になる、故に大切である」ことが、生活家に生活の素材を提供するように。

一、しかも、生活だけするということはできるが、芸術だけするということは芸術家も人間である限りできない。こうして、そこに、紛糾は、およそかつて誰も思ってみなかったほど発生しているのであるが、そのことを文献はほとんど語っていないというのも過言ではない。こうしてここでは「多勢に無勢」という法則だけが支配し、芸術はいつもたしなめられるが、しかも生活側が芸術をたしなめようとすることこそ、人類が芸術的要求を持っているということであり、芸術的要求の生活側での変態的現象である、と言える。何故ならば、無勢であるために多勢にとって覗き見ることがむずかしいものをたしなめることは、また、芸術側が面白い故に面白いものだけを関心するのに相似し平行している。

「生活だけするということはできるが、
芸術だけするということは芸術家も人間である限りできない」
というのをできるようにしてしまうこと。
「しょうぶ学園」はこういうところをやっているのだと思いました。


イベント後に、YUさんと今回のイベントのスタッフの方と、
この映画のプロデューサー相澤さんと飲みながらお話できたのですが、
相澤さんのお話が大変インパクトがありました。
映画プロデューザーが本職というわけではなく、
相澤さんの「みんなに無事に生きていてほしい」という願いが中心にあって、
そのために建築家や編集者として様々な活動をしてらっしゃるとのことでした。
最近は九州北部豪雨災害の支援に奔走されたり、
「震災リゲイン」というNPO法人の代表として活動されたり、
活動のすごさもですが、エネルギーのすごさにも圧倒され、
自分が恥ずかしくなりました。
29r.jp


「しょうぶ学園」の話も、相澤さんのお話もですが、
特性、やりたいこと、願い、思想、愛、環境、プロデュースといったキーワードで、
多種多様な人々が補完し合って、力を発揮して、
実現できないと思われていたことを実現したり、
解決できないと思われていた課題を解決したり、
そういうことなんだなと思いました。


話はやや逸れますが、いま『9プリンシプルズ』という本を読んでいて、
「権威より創発」「プッシュよりプル」「地図よりコンパス」という概念
(まだ3章までしか読んでいないから3つだけですが)、
それのことだ、まさにそういうことなんだと思いました。

とてもありがたい夜でした。ありがとうございます。

9プリンシプルズ:加速する未来で勝ち残るために

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