ただ春の世の夢のごとしだなあ

会社の行事で目黒区民センターに行きました。
数年前は目黒雅叙園で開催していたのですが、
ここ数年は区民センターで、古めのホールで、
クッションが不安定な感じの椅子に座ると、
盛者必衰の理を感じました。


最後に新入社員の自己紹介が行われ、
それを見ていて自分が新入社員の頃を思い出しました。


僕が就職した時期も氷河期と言われていて、
僕は五十社くらいにエントリーシートというのを送って、
十社くらい面接をして、すべて落ちていたのですが、
ついに一社だけ内定をもらうことができたのでした。


この一社がIBMと野村総研が出資して作った優良企業で、
年俸制でかなりの額もらえるのですごいと思ったのですが、
ちょっと待てよ、怪しいと思ったのでした。




「僕を採用する会社なんて信用できない。」




しばらく悩んで辞退しました。
で、学校推薦というのをぺらぺらめくって、
推薦なら落とされなくても信用できる
という変な理屈で、今の会社を選び、
あっさり入れてもらいました。


それから、一年も経たないうちに、
最初に内定をくれた会社が絶好調で東証一部に上場して、
日経新聞の見開きにでかでかと広告を載せたのを見て、
あっちに行っとけばよかったかと思ったりしたのでした。




ということを今日しばらくぶりに思い出して、
その会社を検索したら、どうも
二〇〇八年に倒産したようでした。
粉飾決算を繰り返して経営陣が逮捕されたそうです。


僕が最初に抱いた、
「僕を採用する会社なんて信用できない。」
という予感は的中していたのだなと思いました。


あっちへ行ってたら今頃どうなってたかとか、
可能性は無限にあって、何がよいかは分かりませんが、
パラレルワールドに思いを馳せて、
たけき者も遂には滅びぬだなあ、
ただ春の世の夢のごとしだなあ、
と暑いのか寒いのかよく分からない気候で、
ぼおっとなった頭が、そう思ったのでした。




ではみなさん、
喜び過ぎず悲しみ過ぎず、
テムポ正しく、握手をしませう。
つまり、我等に欠けてるものは、
実直なんぞと、心得まして。


ハイ、ではみなさん、ハイ、御一緒に――
テムポ正しく、握手をしませう。
中原中也『春日狂想』より)