4月11日(金)
会社の施設ではないのだけれど、
三浦半島に安く泊まれるホテルがあって、
社員が代表者になればどんなグループでもよい、
と書いてあったので、へもい人々で行った。
お正月にやった人狼というゲームにみんなはまって、
またやろう! という話になっていたのが、
三ヶ月の時を空けて実現したのだった。
金曜の夜からなので、それぞれ会社を出て、
三浦のホテルにばらばらと現地集合。
早く着いた人は海岸を歩いたり、お寿司を食べたりして、
ぼくも早めに着いたので、お寿司を食べた。
京急ウィング号ですでに缶ビールを一本やってきた
中田さんが合流するなり熱燗を頼んだので、
これから人狼するんだけどいいかなと思いながら一合半ほど飲む。
うまい。三崎港が近いから寿司がうまくて次々食べる。
リゾートホテルの最上階近くで、
海岸線の夜景が遠くまで見渡せるオーシャンビュー。
部屋がだだっ広くて五部屋くらいあった。
それでいて安い。
温泉もあってゆっくり浸かって疲れを癒して、
なんかもう人狼とかやらずに寝るのもいいよね、
みたいな感じになったけど、二三時、
和室に男女一四名が集まり人狼を開始。
たかはしさんの持参したホワイトボードが活躍し、
大盛り上がりでほとんど時間が気にならかった。
六時間ほどやり続けて、日の出。
朝陽を拝むと、村人同士の争いや、
人狼の餌食になった生臭い過去が、
いっぺんに浄化されるような、ありがたい気持ちになった。
日本の民間信仰に「日待ち」というのがあって、
みんなで飲んだり遊んだりして
日の出を待つ風習があるらしいのだけど、
それに近いのかなと思った。
それにしても楽しかった。もっと強くなりたいと思った。
人狼はゲームボードもいならいし、
カードは役割をランダムに決めるときに使うだけで、
ほとんど物を必要とせずに頭脳と話術で遊ぶゲームで、
とてもやりがいがある。プレイヤーの言葉や反応、
場の空気といったインプットを気を緩めずに吟味して、
論理的な思考で、適切に処理し、判断をし、
明快なアウトプットをしかるべきタイミングで行い、
場に流れを生み出さなくてはならない。そのためには、
心理学、社会心理学、統計学、
論理力、表現力、演技力、交渉力などなど、
必要な知識と能力のトータルバランスが問われ、
ぼくに足りないことだらけなのだけど、
だからこそいろいろ勉強になって感心する。
しかも能力があっても、プレイヤーがさまざまで、
不確定要素が多いので毎回驚くような展開になる。
男子部屋と女子部屋に分かれて三時間ほど眠って、
朝風呂に入って土曜の昼前にチェックアウトした。
昼は全員で前日行ったお寿司屋さんで食べた。
その後、剣崎灯台へでも行こうかみたいな話もあったけど、
人狼の熱が冷め切らず、もっとやろうという流れになって、
なんと再びホテルに戻って、会議室を借りて昼の部を開始。
五時間ほどプレイして、さすがにくたくたになった。
けど、夜の帰りの電車がガラガラだったので、
まだ人狼をやったりもした。
人狼漬けの24時間。疲れたけどよかった。
いまは会議室を探している。密かに腕を磨きたい。
人狼合宿の翌週、月曜からみごとに風邪を引いた。
典型的な風邪で、熱が出て鼻が出て咳が出て、
ずっとぼんやりした。けど、
朝型生活を始めようと急に思い立って、
毎朝五時半に起きて、七時台に出社するのを続けた。
朝は誰もいなくて静かでいい。捗る。
早くに来て働いて、定時で帰る。
五月の文学フリマ向けの小説を家で書くのだ。
熱を出しながら書いていたので、読むのも書くのも、
ぐるぐるとなってしまってちょっと参った。
4月18日(金)
楽しみにしていた文芸漫談に行った。下北沢。
風邪は相変わらずで熱っぽく、
ふわふわしていて現実感が薄い感じがした。
現実感が薄いところに、今回の文芸漫談のテーマが、
倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』ときていて、
この小説は本当に掴みどころのない恐ろしい小説で、
長編だから何日もかけて読んでも、
どういう気持ちにもならない。
ずっと不安の中を空回りしているような、
とにかく言葉で表せられない反小説なのだった。
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文芸漫談に来ることが多いのだけど、
今回はイッセイ氏は新婚旅行でイタリアに行っていて、
それも現実感がないし、一緒に行ったのは、
お会いするのが二度目の素敵な女性で、
これもなんかうれしくも不思議な気分だった。
漫談はおもしろく、前回の織田作之助の『夫婦善哉』の
ときほど笑いは起きていなかったけどそれは作品の質の違いで、
深く深く掘り下げていくところがとても興味深く、
楽しかった。のだけど、ラスト、ちょうど終わる直前に、
客席の後ろの方から女性の悲鳴のような大きな声が響いて、
漫談が停止して、騒然となったのだった。
長い長い声で、とんでもないことが起こっていると思って、
ぞっとして固まっていたら、どうやら癲癇の発作の人らしく、
運ばれていって、漫談は終わった。
運ばれた人は意識を取り戻し回復しましたと、
後になってTwitterにあって、とてもほっとしたのだけど、
こういう出来事は生まれて初めての経験で、
ああいう声を聞くと、こういう気持ちになるのか、
と思ったのだった。それが、意味を破壊したり無効化したりする
『スミヤキストQの冒険』の作品世界と妙にシンクロして、
また風邪で熱っぽかったこともあって、
神経が怪しくなりそうで、たぶんぼくは真っ青だったと思う。
北沢タウンホールを出て、すぐ近くの焼き鳥屋さんに入って、
日本酒を飲んでいるうちに落ち着いてきて、
小説の話をしていたら楽しくなって、
すっかり回復した感じになってにこにこしてきたので、
我ながら単純だなと思って、ありがたいなあと思って帰った。
忘れられない一日になった。ほんとびっくりだったわ。
4月19日(土)
起きると喉が痛く、というか喉が腫れ上がって痛くて、
つばも飲めないし、息も吸いづらくて寝ていられずに起きた。
診療所へ行くと、風邪のシーズンのピークは過ぎたみたいで、
いつも混んでいる待合室が空いていて、薬をもらって帰った。
その後は家から出ずに小説を書き続けた。
ここ数日のことや、思ったことや感じたことが、
そのまま小説の中に流れこむけど、仕方ない。
生きれるようにしか生きられない、できることしかできない、
という気持ちに去年ぐらいからなっていたのだけど、
その流れで、書けるようにしか書けないという気持ちで、
とりあえず書くしかなかった。書いて読んで、
書き直し、読み直して、書くの繰り返しをしていたら、
わけのわからないものができたけど、これも仕方ない。
突き抜け派のメンバーたちの小説が集まって、
それをプリントアウトしてじっくり読ませてもらって、
刺激をもらってそれを燃料みたいにして書いた。
こういう経験ってとてもありがたくてうれしくなる。