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はにこさんが、来た。

土曜は、まいこもりすさんのご友人の結婚祝い動画を、
一日中編集する予定だったのですが、


「土曜日に東京にいくんですが」


というメールが、金曜に突然、はにこさんから来たのでした。
午前中に東京で用事を済ませて、お友達の社交ダンスを見た後、
帰るまでの1、2時間会いませんかということでした。


日本武道館で、社交ダンスを見ることになりました。
はにこさんは先に着いていて、僕は後から向かいました。
九段下駅を地下から出ると、前にも来たことがあると思いました。
千鳥ヶ淵を見ると、胸がざわざわします。



天気がとてもよくて暑いので、
ジャケットを着てきたことを後悔したり、
はにこさんと、何を話すのだろうとか考えながら
武道館まで歩きました。
二階席入口の階段で待っていたら、はにこさんが来て、
チケットをくれました。お久しぶりですと言いました。


はにこさんは、お元気そうでした。逆に僕は、
「しーなさん、大丈夫?」
と何度も聞かれました。調子がわるそうに見えたようです。



社交ダンスは、シニアの部をやっていて、
2階席で遠いからか、ステージ上で器用に
ダンスしている人たちの様子が、現実的に見えなくて、
自動制御で動いている感じがしました。
少しお話してから、僕は手摺りに掴って、
身を乗り出してじーっとダンスを見ていましたが、
何か申し訳ないような、恥ずかしいような、緊張するようなで、
頭がぼんやりしていました。


シニアの部が終わって、ラテン系の人たちのを少し見てから、
武道館を出ました。はにこさんは、浅草で一緒に帰る方と
待ち合わせをしているので、浅草に行くことになりました。


地下鉄の経路がよくわからず、迷いそうになりました。
そういえば去年、東京タワーを見てみたいと、はにこさんが言った時、
「赤羽橋」に行くのに、動揺して「赤羽」まで行って、
「どこにもありませんね、東京タワー」
という間違いをしたことが、話題になりました。
「相変わらず迷ってますね」
と言われ、人生も迷いっぱなしです
と返しそうになりましたが、そういう冗談を言えるほど、
緊張は解けていませんでした。



時間まで、

喫茶店に入ることにして、クリームソーダを飲みました。
はにこさんは、アイスコーヒーでした。
僕が、長引いてなかなか治らない咳をしているのを、
心配してくださったりしました。
大阪でお世話になった、おかかさんや、
リアル桃鉄を一緒にした、よしこさんのことを話したりしました。
3人で食事をしたりしているとのことでした。


「しーなさんは、高熱を出さないと反省しない」


と言われているそうです。すみません。
何がきっかけだったか、はにこさんに、


「しーなさんは、いじわるですもんね」


と言われました。といっても、非難している様子ではなく、
ずっと昔から当たり前のことを、やさしく言うような感じでした。


自分の感情は表に出さないで、
誰かから感情を出されると応えない、
都合がわるくなると姿を消したり、
意味の分からないことを言い出す。


これを読むと最低じゃないか、怒られてるじゃないか
と思われるかもしれませんが、
はにこさんは、にこやかでした。


しーなさんは、すぐ脳内物質とか宇宙のせいにして、
すごく複雑そうに見せてるけど、すごく単純。




いじわるで天邪鬼。




でも、それを治したら、しーなさんじゃなくなるし、
それが魅力になっているんだろうね。
遠くから見ている分には、いいんだけどね。



そろそろ

時間だと言うことで、待合せの雷門まで歩きました。



はにこさんの言ったことは、完璧にその通りでした。
言い訳するわけではないのですが、
いじわるするつもりはないのです。
天邪鬼は、昔から家族にも言われていました。


「やっちゃいけないって言うと、必ずやるし、
やれって言っちゃうと、絶対にやらないね。」


これも意図してやっているわけではなくて、
気付いたらそうなってしまっているのです。
ずっと思っていて、聞いてよいものかと、
聞けなかったことを、勇気を出して聞きました。


「なんで、はにこさんは怒らないのですか」


はにこさんの周りの人は、みんな、
はにこさんの代わりに怒っているそうです。
東京でしーなに会うと言ったら、
「なんであんな男に会うの?」
という具合らしいです。それから、たくさんの人から
「しーなさんの、どこがいいんですか?」
と聞かれたそうです。それで、はにこさん自身も、
どこがよかったのか、長くわからなかったそうです。




人を怒らせることをしてしまう、
しーなさんの弱さを好きになったから、怒らない。




観光客で騒がしい雷門周辺が、真空になって、
静まり返ったような感覚がして、固まってしまいました。


イガラシイッセイさんや、石井ゆかりさんと会うことがあったら、
よろしく伝えてくださいね。
イッセイさんがいなくなったら、しーなさんは浮世離れするから。


握手をしてお別れしました。
京都で初めてお会いして、さよならした時を思い出しました。


地下鉄の階段を下りたのですが、
右も左もよくわからなくなって、あっちに行ったり、
こっちに行って戻ったりして、
ああ、僕は頭が混乱していると思いました。