しばらく前のことなのですが、
休日に散歩をしていたときのことです。家を出てすぐに、
目の端の方で小さくて黒い影を捉えたので、
「あ、黒猫だ」と直感的に思って、そちらを向いたら、
前日の風雨で折れて、落ちていた木の枝でした。
それから5分ほど歩いたら、また黒い影がサッと動いた気配がして、
黒猫だ、今度こそ間違いないと思って、気配の方に目をやったら、
捨てられた壊れた傘でした。
さらに5分ほど歩いた頃にも、同じように感じて、
振り向いたら、道路に付いた油の染みでした。
なんでこうも黒猫の予感がするのだろうと思いながら、
地下鉄の駅の前を通過して、和菓子屋の前に来た時、
歩道の真ん中に、黒猫が両手を揃えて、こちらを見ていたのです。
おお黒猫だ、本物だ、と歩いて近づいて行ったら、
黒猫は僕の眼をじっと見続けて、逸らさない。
つま先の1メートルくらいに近づいた時、
黒猫が「4回目でやっとですね」と、目で語りかけてきたのです。
そのまま黒猫を横切って、
目的地の本屋まで歩き続けたのですが、
「『4回目』ってなんだ」ということが気になっていて、
その後、家に帰ってお風呂に入ったとき、気づいたのです。
本物の黒猫と出会うまでに、
僕は3回黒猫に会うチャンスがあったのです。
それが失敗して、3回も黒猫以外の物を出現させてしまった。
スロットマシンのドラムに描かれた絵のように、黒猫や油の染みや木の枝が
高速で回転していて、僕が見た瞬間にドラムがストップして、
絵柄が出る。ボタンを押すタイミングが下手だったのです。
だから黒猫に、「4回目でやっとですね」なんて、
ちょっと飽きれられたような言い方をされたのです。
認識した時々で、対象ができあがっているということを、
黒猫が教えてくれたのです。
なんだそうかそうか、と納得したのですが、
そもそも猫が語りかけてきたというのは、どういうことなんだと、
これはよく分りません。