おっさんに足を蹴られるという因果。

僕にしては晩くまで働いて、
横須賀線で帰っていたのですが、
車内が、わりと空いていて周囲にも
人がいなかったので座って足を組んで
本を読んでいたのです。


そうしたら、横浜駅で僕の足の土踏まずを
結構な勢いで誰かが蹴り上げた感触があって、
なんだ、と本から目を上げると、しらないおじさんが、
僕のことを見ているので


「なんですか」


と聞いたら、


「座り方が違うんだよ」


と怒られたのでした。
で、なんだよと。車内はがらがらで、
いくらでもスペースがあるのに、
どうして僕の近くまでわざわざ寄ってきて、
誰の迷惑にもなっていない僕の足を
蹴り上げるのだと腹が立って、




「もし私が朝青龍だったら、お前、今頃……!」




と久々に怒っている自分を感じていたのですが、
いや、こういう因果になったということには
何か自分の行動や思考の中に、
六波羅蜜や八正道に背いたことがあったのではと、
本を読むのをやめて十分ほど考えていたら、
そのおじさんが降りる駅になって、
こちらを見てきたので、
また何か言われるのかと思って身構えたら、




「すみません」




と頭を深々と下げてから、もう一度、
感心するくらいきれいなお辞儀で、
顔はこちらに向けたまま、目は真剣に、




「すみません」




とドアが閉まる間際まで謝って、
降りて行ったのでした。
おじさんの顔や目は赤く少し酔っているようでした。


もうなんなんだよ、と思ったのと同時に、
なんか、かわいそうだと思いました。
皮肉ではなくて、鼻の奥がつんとして、
本当にかわいそうだと思いました。
そして、こんなことで、
ドルゴルスレンギーン・ダグワドルジ(朝青龍の本名)
まで持ち出して腹を立てていた自分が、
すごく浅はかだと思いました。
生きづらいのだろうな、それだけで
充分いろいろ償っているだろうと。
降りるまで考え続けて謝ったのだな。


思い出すとまだ少しイラっとしますが、
宇宙的な因果が何かを教えてくれたのだろうなと、
何かよくわからないものに感謝しています。
許さないとかそういうのは、自分に呪いをかけることだ
と何かで読んだ記憶があります(内田樹さんの本だろうか)。



それはそうとして、


同人誌『突き抜け』ですが、
予約が100冊を超えました。
でも、よく計算してみたら、
完売しても赤字だということが判明しました。


リラックス・オープン・エンジョイなので、
全部オープンにしますが、

本の製作費:67,505円
文学フリマ参加料(1ブース):4,000円
合計:71,505円


が出て行くお金。
入ってくるのは


500円×150冊=75,000円

なんだ3,495円の黒字じゃないか
と思うかもしれませんが、
執筆者が2冊ずつ記念に持ち帰ると、


2冊×6人×500円=6,000円

が売り上げから引かれて、
突き抜け派アウトとなります。


と書いていて、あっと思ったのは、
足を蹴られたのは、お金のことばかり
考えていたからではないかと思ったからです
(お金のこと「お足」って言いますし)。
だから収支のことは忘れます。


150冊もの厚めの本が皆さんの手に渡って、
それを楽しみにして読んでもらえるだけで、
僕は感動ですし、突き抜け派メンバーたちも
皆さん同じ気持ちだと思います。


そんな、しらないおっさんに足を蹴られちゃった
しーなねこが放つ小説「おしるこ温泉」が掲載された
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