金・土・日のこと。ぽかぽかした。二〇一三年が半分すぎた。

金曜日は会社のレイアウト変更があって、
書類を大量に捨てたり、倉庫を何度も往復したり、
移動させるものをダンボールに詰めたりして、
へとへとになって会社を出て、
そのまま階段を下りて、さらに下りて、
疲れると人は下へ下へ行きたくなるものなのかもしれない、
と思いながらアゼリア地下街へ入って、
甘くて冷たいものが食べたいことに気づいて、
三段重ねのアイスクリームを食べたのだった。

うまかった。四百円。
かるく飲みたい気分になったのだけど、
梅雨の気圧変動が胃腸にきてるらしく、
頬に吹き出物ができていたい。飲まずに帰った。


家で風呂につかりながらゆっくり本を読んで、
あまちゃんを見て、それからタモリ倶楽部を見た。
「ひとり国土地理院大集合」というテーマで、
架空の地図を自らの内にある設定に忠実に、
この世に存在しない場所の地図を詳細に描く人たち。
小学生の頃から書き始めたというケースが多いらしい。
本人の脳にはストリートビューでその場所が、
駅、道路、住宅街、商業施設、山、河川、人びとまで、
しっかり見えていて、そこを歩いているのでは、
というくらいにリアルで、感動してしまった。


ぼくは小学生の頃は、レゴブロックを組み立てたり、
プログラムを書いてゲームを作っていたのだけど、
抽象的な小さな部品をいくつか組み合わせると、
自分のルールがいつのまにか生まれていた気がする。
そして今度は、その生まれたルールが軸になって、
抽象的で断片的だった世界が少しずつ拡張されていく。
拡張が一定の域を超えると、物語が生まれてくる。
その繰り返しで世界が広がっていくのにすごく夢中で、
ご飯を食べるのを後回しにして、夜中まで何時間も、
人形同士戦わせたり、ランダムな数字の組合せから
キャラクターの性格をイメージして遊んでいたのを思い出した。
創作することは、それに近い作業なのかもしれないと思った。
子どものときみたいに、それくらい没頭できればなと思った。
そして、いま没頭できない理由はなんなんだろうと思った。

土曜日

朝の九時半に起きて、あまちゃんの再放送を見る。
一週間分を一挙に見れる。そしてそのまま土曜分も見て、
満足して、ふたたび布団に入って寝た。
とにかく眠くて眠くて、あと身体がパキパキ鳴って、
固まっていた。すごく疲れていたみたい。


夕方に外へ出て、品川へ。
大切な友人と五年ぶりに会う。少し緊張する。
その人は夜行バスで朝のうちに東京に来て、
渋谷でイベントに参加して、
その後に品川で会うことになっていた。
ぼくは早くに到着してしまったので、
品川港南口付近のベンチに座って、
身体をねじって胸椎をゆるめたりしてから、
エクセルシオールに入ってコーヒーと、
甘いクッキーを食べながら、読書をして待った。


連絡があって、花屋の前までいそいそと歩く。
しーなさん、と声をかけられて振り向くと懐かしい顔。
の前に、声が耳に入った瞬間にその人の、
やさしさや深さやあたたかさのようなものが、
心に膨らんでいた。そういうものなのかと思う。
一言二言、話を聞くたびに、記憶が鮮やかになって、
ああ、こういう感じだったなあと思った。


前に行ったことのある居酒屋に入って、ビールを一杯だけ飲む。
沖縄そばとサラダに肉が入ってて、焼き鳥も頼んだので肉だらけ。
食後に温かいさんぴん茶を飲んだ。
もう開くことはないかもと思っていた引き出しの中から、
当時の話をそうそうと取り出しては、笑ったり、反省したり、
どうしてぼくはああだったんでしょうねと、いろいろ話した。
ぼくは数年前からずっと申し訳ないという気持ちを持っていて、
ときどき胸がいたんでいた。ひどいことをしてしまったと、
思っていたことを伝えて、そのことを謝った。
全然気にしてないですよ、と言ってくれたけど、
怒ってもいないと言ってくれたけど、それでも、
ぼくはぼくのことを変でイヤなやつだったなと思った。
いまはどれだけ変われたのかわからないけど、
成長しましたねと笑ってくれたし、
(男子だけど)女子力もアップしましたねとか、
たしかにぼくは気が利くようにはなったと思った。


品川の高輪口からしばらく歩いたところにある
バスターミナルまで歩く。途中のロッカーで、
紙袋や上に羽織るものを取り出す。
ターミナルは品川駅に出入りする電車を
間近に見ることができて、何本も電車を見送った。
八時半発の夜行バスが来て、軽く握手をして、
バスに乗る友人の後ろ姿を、
少し離れたところから見送って帰った。

日曜日

午前中に目が覚めて、瞑想をして、また寝る。
昼、図書館へ寄って予約していた本を受け取って、
ジムへ行って、筋トレと有酸素運動。
負荷をかるくして、呼吸をしっかりしながら、
身体全体のバランスを意識しながらやる。


スパでリラックスしてシャワーを浴びて、
お台場へ向かう。デイリーポータルZの企画、
「書き出し小説大賞」の授賞式を見に行くため。
このイベント自体も楽しみだったのだけど、
もうひとつ楽しみがあって、それは、
suzukishikaさんに会えるということだった。
まだ会ったことはなかったのだけど、
Tumblrでお互いにリブログをし合う仲というのだろうか、
保存している文章の好みが似ているというか、
ぼくは勝手にsuzukishikaさんをソウルメイトと思って、
いつかお会いしたいなと思っていたのだった。
で、suzukishikaさんは、書き出し小説大賞で、
何度もノミネートされているので、北海道から、
このイベントのために飛行機で東京に来たのだった。

開演の十五分前に着いてしまったので、
観覧車の向かいのファストフード店に入って、
ソフトクリームを食べる。開場して中に入ったものの、
suzukishikaさんの顔をぼくは知らなかったことに気づいて、
隅の席でじっと文庫本に目を落としていたら、
向こうから声をかけてきてくださった。
とても初対面とは思えないくらい、短い時間なのに、
なぜかいろいろ通じるものがあって、元気が出た。


イベントは、「書き出し小説」と呼ばれる、
書き出しだけで完結する短い文章を、
女性が朗読するというもので、全体的に静かで、
笑いが起こったり、しみじみとしたり、ぐっときたり、
いろんな感情を、凝縮された短い文章から還元して、
みんなで想像して楽しむという、贅沢な時間だった。
大賞に選ばれたのは、

メールではじまった恋は最高裁で幕をとじた。

という書き出し小説だった。
イベントのあと、懇親会があったけど、
翌日から、会社のレイアウト変更の荷解きとかするので、
名残惜しいけど帰ることにした。
suzukishikaさんと握手して帰った。
北海道へ行きたい。


土日とも、偶然、夜行バスや飛行機で遠くから、
遊びに来たひとと会った。それでぼくは、
土日とも心がぽかぽかしたのだった。
流れ星みたいに、何か運んできてくれたような、
そういう気がした。二〇一三年の半分がすぎた。