ギャル語道灌

「チョリーッス! ご隠居」
「おや八っつぁん。どうしたアポなしで。なにかい、今日は休みかい? まさか仕事ドタったわけじゃないだろうね」
「仕事っておれニートだし。今日もヤーシブでオケろうと思ってテクってたんすけど、へんてこれんな天気になりやしたから、こっちに来たって〜次第」
「あーね。とりま、お上がり。ゆっくりしていきなさい。茶でも入れよう。さいわい、よそから甘い菓子をゲトったんでね」
「ちょwwwスイーツ笑」
「はてね、八っつぁん、あめえもんはやーよだったかい?」
「いぇあ、あめえもんとなると、ガチでヒヨっちまうんすよ。金つばなんぞは、十個もパクつこうもんなら、完全にテンサゲ」
「やばば。あきれたね、この人は。だれだってそんなにパクついたら、バイブス下がるよ。しかし、今日の菓子はマジパない上等なものだよ。到来物だ」
「ちょwww弔いものってヤバくないすか?」
「弔いじゃないよ、到来。もらいものだ」
「ですよね~ もらいものでなくちゃ、上等の菓子なんかあるめえからねえ」
「八っつぁん、よけいなことを言うとオコだよ!」


「しかし、ご隠居、ひさしくこねえあいだに、さりげ部屋のコーデ変えてねえっすか? パねえんすけど」
「ああ、少しばかり手を入れたよ」
「やば、ハゲそう。オシャンティでニャンついてないし、ちゃけばクラブじゃないすか?」
「いやいや、おそれいったな。ちゃけばクラブとは盛りすぎワロス」
「神ってるんすけど。こんだけいかちくなると、ご隠居、あんたがこの空間にいることが、わけわかめなんすけど」
「こらこら、それが余計なディスというのだよ」


「ところでなんすか? この逆さ屏風は?」
「逆さ屏風ってやつがあるかい、逆さ屏風ってえのは、人が死んだときに立てるんだよ。ガン見してごらん、これは衝立というものだよ」
「ははあ、月のはじめっすね」
「まじか!」
「えっ、ついたちだって」
「パないねえ、八っつぁん、衝立だよ」
「うーわ、チョッパズなんすけど」
「こっちだってショッキング・ピーポー・マックスだよ」


「しかし、いろんな絵があるんすね。こっちには、いい感じのギャルがいるけど、だれすか?」
「ああ、これはみちょぱだ」
「ああ、この女すか、ポップティーンの表紙を五ヶ月連続飾ったギャルってのは、ぱねー」
「いい男を見れば、ザイルのようだ。ザイってるというし、いい女を見ればみちょぱのようだという。ギャルい美女だ」
「雨の日に濡れて歩いたんすか」
「は?」
「いいえ、ビショだって」
「ビショではない。美女、美しい女だ。モテない女は喪女、こわい女は鬼女」
「ひげのはえたのを、どじょう」
「バビるわー」


「ご隠居、ところでこっちの絵はなんすか?」
「どれだい?」
「ちょろちょろ流れの小川のところに、椎茸があおりをくらったようなカウボーイハットかぶって、虎柄のスウェット穿いて立ってる男がいてさ、こっちに、洗い髪の女が、お盆の上に、黄色いハイビスカスのっけて、おじぎをしているじゃないですか?」
「なんという絵の見方をするんだよ、ドンキに買い物にきたカップルじゃないんだよ。カウボーイハットってのがあるもんか。それは騎射笠だ。虎柄のスウェットではない、むかばき。女の髪は下げ髪。お盆の上の黄色いのは、山吹の花だ」
「で、誰なんすか?」
「その方は、太田道灌公だ」
「あ、ダチに塗装工がいますよ」
「土管工じゃないよ、太田道灌という名前の人だ」
「へえ、道灌なんて、ザイルにいましたっけ?」
「ザイルにはいないよ」
「湘南乃風?」
「いない」
「ちょwwwなんすか、ここまでみちょぱとかザイルとかだったのに、Doしていきなり歴史上の人物出すんすか? やばたんピーナッツなんすけど」
「八っつぁんね、もしここで道灌公をザイルのアツシに変えてみなさい、話の筋が滅茶苦茶になって、サゲにつながらなくなるんだよ」
「なんすか? サゲって、アゲていきましょうよ!」
「バイブスの話じゃないんだよ。落語は落とし噺、サゲないと終わらないんだ。とりま、道灌で進めるお」
「えー……了解ウオッチ。で、なんすか、この絵は。何してんすか?」
「治にいて乱を忘れず。足慣らしのために、田端の里へ狩りくらにお出かけになった」
「狩りくらって、なんすか?」
「鷹野だ」
「たかのって、なんすか?」
「野駆けだよ」
「ああ、薄明るくなるやつだ」
「それば、夜明けだよ」
「ああ、『ライジング・サン』」
「ザイルから離れなさい。山の中へ鳥や獣をとりにいったんだ」
「なるほどですね」
「すると、にわかの村雨だ」
「にわかが、ちょずいてますね」
「べつにちょずいちゃいないよ、村雨だよ」
「ああ、村雨、あいつ、もきゅいっすよね」
「もきゅくねえし」
「……村雨ってなんすか?」
「雨だよ!」
「なーんだ、雨っすか。これだから年寄りはメンディー。雨ならはなっから雨だっていやあ、わかるっしょ。それをむらさめなんて、意識高い系?」
「意識の問題じゃないよ。にわか雨のことを村雨というのだよ。ところが道灌公、雨具の用意がないから、ガン萎えだ。そこにジモティーのあばら家があった」
「そんな過疎ってるとこに油屋出したって、閉店確実じゃないすか、ウケるんですけど」
「油屋じゃない。あばら家だ。壊れかかった、そまつな家だ。雨具を借りたいと訪れると、なかから二八あまりのしずの女だ」
「なんで東雲さんが出てくるんすか」
「東雲さんじゃない。しずの女、いやしい女のことだ」
「はあ、つまみ食いとかしちゃうんだ」
「そのいやしいじゃない。ボンビーガールのことだ。顔を赤らめて、乙女が、盆の上に山吹の枝を手折って、『おはずかしゅうございます』と、もにょりながら道灌公に差し出した絵だ」
「なるほどですね。そのイモ気味のギャル、相当テンパったんだね。殿様は雨具貸してくれってきたのに、山吹の花出して、それでもって雨はらって帰れってんでしょ。ありえねー」
「お前に分からないのも無理はない。これは謎かけだ。当の道灌公、文武両道に長けていたが、頓智頓才というものに疎かったか、少女の出した謎が解けない。ガチでフリーズしていると、ご家来の中に歌に詳しい者がいてな、お殿様より先に謎が解けた。『バビりながら、べしゃらせて頂きます! 兼明親王のナツいパンチラインに、『七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞ悲しき』というお歌がございます。山吹というものは実のないもの、これはお貸し申します蓑がございませんという、実と蓑をかけてのお断りでございましょう』というと、道灌公、小膝を打たれ、『ああ、余はまだ歌道に暗いのう』といって、そのままソクサリしたらしい」
「へええ、そうすか。まあ、はええ話が、道灌公がイモギャルとDJバトルしてフルボッコになったって話っしょ」
「まあ、そんなところだ」
「だけどなんすか? その歌道に暗いってのは?」
「歌の道に暗い。つまり乙女の出した歌の謎がわからなかったことだ」


「へええ、なんでしたっけねえ、その雨具がねえっていう断りの歌は?」
「べつに雨具がないと断る歌ではないが、『七重八重花は咲けども山吹の実のひとつだになきぞかなしき』だ」
「そうそう、じゃ、あれだ。月末になって今月は勘定が払えねえって断るパティーンのをひとつ、おなしゃす」
「そんなパティーンがあるもんか」
「サーセン、じゃ、その七重八重の歌をね、仮名で書いてほしいんすけど」
「書いて、どうするんだい」
「雨ふったときにね、うちにイベサーの連中が来るんすけど、あいつら傘でも下駄でも貸してやると、借りパクしやがるんで、ガンギレッティなんすよ。だからこのリリックで、断っちまおうと思うんす」
「そうかい、書けといえば書くが、おまえの友達に、歌がわかるかい?」
「わかんなくたっていいんすよ、あいつら歌詞の意味なんてわかんねえのにエモいとか言ってるバカばっかすから」
「お前が言うな。では書こう」
「なるほど、えーと、ななへやへ、はなはさけとも」
「だめだな、そんな読み方をしちゃあ、濁りを付けるところはちゃんとつけて、七重八重花は咲けども山吹の実ひとつだになきぞ悲しきだ」
「了解ウオッチ。じゃ、あっしはこれでソクサリしやす」
「急だね、もう帰るのかい」
「ええ、雲行きが怪しくなってきましたから、Bダッシュでドロンします、おっつーってことで。あれ、もうぽつぽつやってきたぜ、早く帰って傘借りに来た奴らにこのリリックを使わなくっちゃ。おおっと降ってきた。やっべえ、べえっ、べえって、べえって! ウェーイ! 家へ着くなりの大村雨だ。下手すりゃ、こっちが道灌になるとこだった。いやあ、降ってきたもんだ。こうやってヲチしてると、通る通る、いろんな道灌が通るな。男の道灌、女の道灌、子どもの道灌、犬の道灌。これだけ道灌がいるんだから、ひとりくらいうちにも来るだろ。テンション鬼アゲ!、全裸待機するしか」


「チョリーッス」
「おうっ! きたな道灌、待ってたぞ」
「サーセン、借りものがあるんすけど」
「ワカッティング、ワカッティング。おめえの借りにきたものは先刻了解ウオッチだよ。雨具を借りにきたんだろ?」
「いや、今朝うちを出るときにね、朝焼けしてあぶねえと思ったから、雨具はもって出たんだが、急に用事ができちまって、帰りがおそくなっちまったから、ちょうちんを貸してくれ」
「は? ちょうちん? まじか! おかしな道灌がきやがったな、トキトバわきまえてくれよ」
「なに言ってんだよ、はやくちょうちんを貸してくれよ、ケツカッチンなんだよ」
「そんなこと言わねえで、雨具を貸してくれと言ってくれ」
「だから雨具はもってるんだよ。もういいわ、貸してくれねえなら、ほかあたるわ」
「ちょwww、かまちょかまちょ。じゃあ、雨具を貸せと言ってくれたら、ちょうちん貸してやるよ」
「はぁ? 何システム? まあいいあ、じゃあ言うぞ、雨具を貸してくれ」
「オーシェイ! 『おはずかしゅうございます』」
「おう、よせよ、ラリってんのか? 女みてえなマネをして」
「だまってろい、こっちは、東雲なんだよ、さあ、これを読め」
「なんだい、こりゃあ、ななへやへ……」
「なんてえ読み方をしてるんだ。ウケるんですけど。いいか、よく聞いてろよ。七重八重花は咲けども山伏の味噌一樽に鍋と釜しき……どうだ?」
「なんだこりゃあ、おめえの考げえた勝手道具の都々逸か?」
「どどいつ? おめえ、これを知らねえところをみると、よっぽど歌道に暗れえな」
「ああ、角が暗れえから、ちょうちん借りにきた」
「それな」


踊る臨海亭一門会05 落語「道灌 ver.2015」しーなねこ