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駅前で「日曜の夜なので飲みに行きませんか?」と書いて立っている人を見て心が揺れた

このところ土日は、たいてい家にいて昼まで寝ている。
起きてチャーハンとカップ麺を食べてから、
本を読んだり落書きをしたりしていると夕方になっている。
ジムに行って運動する。土曜も日曜も行く。
トレーニングエリアが閉まる1時間前がもっとも空いていて、
そこで脚・腕・胸・腹・背の筋トレをして、有酸素運動を20分。
それから風呂に入って、サウナに入って、シャワーを浴びて出る。
ジムの下がTSUTAYAになっていて、そこにもだいたい寄る。
マンガを借りたり、ブルーレイ借りたり、本を買ったりする。
昨日は芥川賞受賞の二作品が掲載された文藝春秋を買った。


昨日も今日も上に書いたようなことをした。20時。
今日は夕飯がないので、上大岡で飲んで帰ろうと歩いた。
で、駅の裏表さらに商店街の方まで、
あちこち歩いて何軒も居酒屋を外からのぞいて見たのだけれど、
どうも決め手に欠けるなあと、さまよっていたら、
京急上大岡の改札を出たところに、


「日曜の夜なので飲みに行きませんか?」


とホワイトボードに書いて立っている
二十代と思われる男子(大学生?)がいた。
店の呼び込みとかではなさそうで、どちらかというと、
ヒッチハイクでもしているかのような風情で立っている。
変なことをしているなと思ったけど、
リアル桃鉄で駅前で似たようなことをした経験のあるぼくは、
共感を覚えたというか、いままさに、


「日曜の夜なので、だれかと飲みに行きたい」


という気持ちだったのだ。しかし待てよと、
いいオトナになったぼくは警戒心が強まっていた。
何か裏があるんじゃないかとビビってしまい、横目に通り過ぎ、
そのまま向かいのビルのあおい書店にいったん入った。
「大丈夫か? 変なセールスとかだったらやだな」とか
「いや、ああいうことできる人には関心あるぞ」とか、
あれこれ考え店内を周回し、渡り通路を通り向かいのビルの
カフェドクリエに入り、文藝春秋を読みながら、
「いや、もしさっきの人に飲みに行きましょうと言ったところで、
彼の目的は女子をナンパするつもりなのではないか。
だとしたらこんな三十代後半の男が声かけたら断るのでは」とか、
「もしかして、Youtuberとかやってる人で、
どこかから撮影されているんじゃないか」とか、
「もし飲んだら『駅前で飲みに行きませんかと立っている人と飲みに行った』
というタイトルでブログに書けそう」とかあれこれ迷い、
30分ほど読書して切りのよいところで店を出た。
よし、声をかけてみよう。いろいろ聞いてみたい。
と緊張しつつ、男がいた場所へ向かった。


いなくなっていた。


さっきの男はいなくなっていた。
ガッカリ感と安堵感が混ざり合ったものが胸に広がった。
そ、そうか、飲みに行く相手が決まったか……。

そして、鎌倉街道を港南中央の方へ歩き、
おでんと蕎麦の立ち飲み屋に入ろうと思った。
あそこ、店員さんがいろいろ話しかけてきてくれたよな、と。
で、戸に付いた小窓から中を見ると満員。入れそうにない。
中は暖かそうで、話し声がどっと盛り上がっている。


嗚呼、日曜の夜。


ひとり。


上大岡の駅前で立っていた、彼の気持ちがいまとてもよくわかる。


「日曜の夜なので飲みに行きませんか?」


港南区の中央で、そう叫びたくなっていた。
こうなったらキャンドゥ上大岡店でホワイトボードを買って、
今からぼくも同じように立って見ようかと思ったがやめた。
行動を起こした者は、今ごろ楽しく酒を飲んでいるのではないだろうか。

見習うことがたくさんあるし、
ぼくは反応するまでに時間がかかりすぎた。
レトルトカレーを缶ビールで飲み込みながら、反省した。