光の館にいってきた(後編)

光の館周辺の展示をひと通り見終えて、
チェックインの午後4時になったので、光の館に入りました。



館内にはスタッフの女性がひとりだけで、
我々を温かく迎えて、施設の説明をしてくれました。
説明中に外でクルマの音がして、この日に宿泊する
もう1グループがやってきました。
女性の5人組だということで、女子大生を期待しましたが、
そうではありませんでした。


スタッフの人は、お風呂についてや、
天井の窓の開閉方法、備品を使用する際のルール等を説明して、
集金を済ませると、


「部屋割りとかは、お客さん同士の話し合いで決めてくださいね」


と言って帰って行きました。翌朝にまた来るそうです。
とても感じのよい方でした。



館内には、

宿泊客だけになりました。
そうこうしているうちに「プログラム」の時間になりました。
光の館の天井が、ピーッ、ピーッ、ピーッという電子音と共に、
ゆっくり開いていきました。



それを我々は頭を中心に向けて、
放射線状に仰向けで寝て、ただただ眺めるのです。




音が止まって窓が完全に開き切ると静寂になって、
空が正方形に切り取られた様子は、絵のように見えました。
いろいろな形の雲が流れて、窓の端から出て反対側に消えていき、
じっと見ていると、空が下にあるような錯覚がしたり、
無限に広がる空を、あえて有限に切り取ることで
感じるものについてぼんやり考えていました。
いくら見ていても飽きないのは、
空の色がゆっくり変化していくので、
一瞬も同じ見え方にはなることはないからかなと思いました。



1時間も経つと、空は真っ黒になりました。
空の青にはものすごい種類の青があることや、
そもそも数とか値では仕切れないものの流れを感じて、
感動してしまいました。記憶や記憶にまつわる感情も、
断片断片でシャッターを切ったときの一枚絵に
過ぎないのかなあとか思って、鼻の奥がつんとしました。



しばらく

感想とかを話したり、二階の縁側とかを歩いたりしていたら、
戸をどんどんと叩く音がして、
おじさんが料理を置いて帰って行ったので、
それを部屋に運び込んで夕食にしました。




料理は山菜とか上品な味でどれもうまかったです。
しかも量が多くて、動けなくなるほどでした。
もちろん缶ビールを開けました。
食事が終わっても、まだ7時でした。
部屋にはテレビもなくて、何もすることがなくなりました。
時間の流れが、とてもゆっくりに感じるのです。
いかに普段、テレビやネットで時間を浪費しているかがわかりました。
手持ち無沙汰になってきたので、


「トランプでも持って来ればよかったですね」


と僕がいったら、ウエノさんが、


「トランプ持って来てます」


と言って出してくれました。
「なんでトランプを持ってきてるんですか」と聞くと、
「新幹線に乗るから」という答えでしたが、
そういうものなのでしょうか。



和室で座布団敷いて、

机を5人で囲んで、ババぬきを10回くらいして遊びました。
イッセイ氏が3回負けたところで終わって、
再びすることがなくなりました。


「じゃ、日本酒飲みますか!」


と誰からともなく声が上がり、
館の方が推薦してくれた吟醸生「松乃井」を開けて、
お猪口で飲みました。ほとんど記憶に残らないような、
どうでもよい話をしてよく笑って、
杯を重ねるうちに暑くなってきて、天井を再び開けて、
部屋を寒くしてみたりして、また飲みました。


空は夕方に暗いと思った時の空より、さらに黒くなっていて、
空は24時間色を変えているのだと思いました。


酔って横になっていたら、イッセイ氏が僕の背中を踏み、
足でマッサージみたいなことを始めたので、


「やや、これがインド式マッサージというものですか?」


と聞いたら、




「いや、適当」




ということでした。
そうしたら、仕事でマッサージをしていたumiさんが、
僕の足とかを本格的に押してくださって、
超気持ちよかったです。
その後、umiさん指圧のコツ講座になったり、
誰の肩がもっとも凝っているかみたいになったりしました。
トップはひのじさんの肩で、石像のようでした。



それから、

「ちょっと外に出てみませんか」
と提案して、皆で館の外に出てみることにしました。
光の館周辺は、作者のタレル氏の意向で、
一切の明かりをなくしているそうなのです。



本当に真っ暗でした。
数メートル先が暗幕がかかったように、とっぷりと暗くて、
備品の懐中電灯がないと歩けないほどでした。
これはおもしろいと思い、皆が館から出てくる前に先回りして、
付近のススキの影に隠れました。
明るかったら一目瞭然の距離なのですが、
案の定、誰も僕を発見できずに、


「あれ、しーなさんは?」


と言って近づいてきたので、
唐突に懐中電灯を点けて、僕の顔を浮かび上がらせたのですが、
ショックが強すぎたのか、「え!うそ!なに!」という感じて、
あまり反応がありませんでした。


遠くで夜景が煌くのが見えました。
それもとても美しかったです。


で、また戻ってきて、
冷蔵庫に入っていた本醸造「松乃井」を
引っ張り出してきて飲み続けて、
イッセイ氏は顔を真っ赤にして畳に横たわり、
僕も横になりながら話したりして、
午前0時半くらいまで続きました。



お風呂はひとつだけで、

女子が先にお風呂に入って出てきて、
「すごかったですよ、真っ暗で!」
と喜んでいたので楽しみになりました。
光の館の目玉は、開く天井と、もうひとつは、




真っ暗なお風呂なのです。




スタッフの方の話では、お風呂には照明がないので、
シャンプー、リンス、ボディーソープの並び順を、
明るいうちに覚えておくとよいですとのことでした。
どんだけ!


あと、僕が普段から
「混浴、混浴」とばかり言っているので、




「真っ暗だったので、混浴全然大丈夫ですよ」




と言われました。実際に言われると固まります。
それはそうと、お風呂は本当に楽しかったです。
光ファイバーが入っていて、お湯に浸けた部分が、
青白く浮かび上がる仕掛けになっているのです。
お風呂場自体は真っ暗なので、お湯に入ったところだけが、
光るのですが、これはもう実際に入って確認した方がよいです。


ガラス戸を全開にすると、露天風呂のような趣になって、
すごく寒いのですが、外に出て、またお湯に入ったりしました。



風呂から出たら、

午前2時になっていて、
布団を放射線状に並べて寝ました。


そして忘れていたのですが、光のプログラムは、
日の出の時刻にもあるのでして、日の入りとは逆に、
明るくなっていく空の色を見るのですが、
明日の日の出は、




午前4時半




で、強制的に起こされるのでした。
まいりました。
その上、女子が近くで寝ているので
緊張してほとんど眠れませんでした。
イッセイ氏は、一睡もできなかったそうです。




(後編で終わるつもりでしたが、もう1回続く)